順位戦Aラス・対局の余談

といっても、私は朝のやりとりは直接に見たわけではないので、何とも言えません。
それからたぶん、棋士の多くも、サイトに書いてあること以上のことはそんなにご存じないようですね。事前になにか申し送りや、会議の議題などとしてあったわけではないようですから。(ほんの少し聞いて回っただけですが)
↓分かりやすくまとめてあったので、こちらをどうぞ。
http://d.hatena.ne.jp/readingknowledge/20090304/


将棋会館の従業員用の階段。写真の真ん中を縦に横切っているのはコードの束。

とりあえず、サイトの運営というのはどういう仕事をしているのか、裏側から観察した解説を。


《サイト中継スタッフ》
インターネットで速報をする人々。
関西班を入れても10人にも満たない人数で、全国の複数の中継を切り盛りしている。
はっきり言って現状でも人手不足のように見えます。

開始前

数袋ぶんのコードやモジュラージャック、山ほどの機器、PCを持って誰よりも早くあらわれ、TV中継スタッフたちとともに、対局者たちが来るよりも先に中継のためのセッティングをすませる。
初めてのホテルや旅館だと内部の施設が古く、なかなか通信が開通せずに肝を冷やすことも多いらしい。

対局中

パソコンの能力と将棋の棋力をともに必要とする。
対局者が指すたびに画面の駒を動かして送信。
同時に控え室の中や、対局者のオヤツ・食事などの写真を撮影して素材を用意。
検討陣のさまざまな意見を聞きだし、その見解を解りやすくまとめて↑とともに公式掲示板に流す。
大盤解説がある場合はカメラを抱えてその会場まで行き、写真と情報を採取する。広いホテルや旅館だと端から端まで地下鉄一駅ぶんほど往復歩くことも多々ある。
たまに地方では地元の強豪がかり出されるが、将棋が強いだけでは報道が追いつかず苦労している。またもちろん、パソコンにだけ詳しくても将棋を知らないと「しちごま」「ちゅうざびしゃ」などの変換文字が分からない(実話)ので、スムーズな中継は積み重ねた経験を必要とする。

終局後

投了図を送信するのとともに、棋士からどこがポイントだったか聞き出すのと同時に、対局者の写真を即座に撮影に行く。
順位戦のように、複数の対局がいっぺんに行われている場合、あちこちでいちどに終局してしまうと、中継班はパニックをおこす。その場合は「◎◎の送信よろしく! ボクは××を撮りに行きますっ!」と担当を混ぜて協力しあってこなす。
その送信が終わってもまだ終わりではない。
まとめの見解を入れ、サイト全体のメンテナンスをしなくてはいけない。
タイトル戦の場合、夕食の席にはまず、ほかのマスコミや地元の名士が先に揃うのだが、感想戦をたっぷりやってシャワー+着替えが終わった両対局者が打ち上げにあらわれても、TVとサイトの中継スタッフはまだ食堂にやってこない。
速報記事を送信した担当記者や観戦記担当者がようやく席についても、まだ来られない。
コース料理がすべて出て、冷めて、みんないい感じに酔っぱらって、下手するともう半分ほどが部屋に帰ってから、一段落つけた中継班たちの登場。……ちょっと寂しそう。
しかも、御飯を食べてから翌朝帰宅までに、開始前にえんえん設置したコードや機械を撤去しなくてはならないのです。


という、「誰よりも最初に来て、誰よりも最後に帰る」人々です。
労力のわりには賃金が安いし(言わないけれど、時給換算すると専門職と思えない値段になります)。
しかも彼らはネット中継の黎明期からずっと試行錯誤して、苦労して、この形をつくられましたからねぇ。
おかげでこちらは、自宅にいながらにして臨場感と画像あふれる速報を得られるのですから、ありがたいことです。


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